東京地方裁判所 昭和60年(行ウ)73号 判決 1990年2月23日
埼玉県川口市赤井一丁目二九番二一号
原告
金子倉庫株式会社
右代表者代表取締役
金子吉蔵
右訴訟代理人弁護士
長畑裕三
右訴訟復代理人弁護士
八代宏
埼玉県川口市青木二丁目二番一七号
被告
川口税務署長
桑野充伸
右指定代理人
野崎守
同
大池忠夫
同
石和田一郎
同
保科正人
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五八年三月一一日付けでした原告の左記各事業年度の法人税についての更正及び重加算税の賦課決定(ただし、昭和六〇年二月一九日付けの審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち、
(一) 昭和五二年二月一日から昭和五三年一月三一日までの事業年度につき所得金額一五九七万九九八一円、納付すべき税額五五五万一六〇〇円、重加算税額一二万五九〇〇円を超える部分、
(二) 昭和五三年二月一日から昭和五四年一月三一日までの事業年度につき所得金額一一四九万三二九一円、納付すべき税額三七五万七二〇〇円、重加算税額四万〇九〇〇円を超える部分、
(三) 昭和五四年二月一日から昭和五五年一月三一日までの事業年度について所得金額一二四三万五八二二円、納付すべき税額四一三万四〇〇〇円、重加算税額七万九四〇〇円を超える部分、
(四) 昭和五五年二月一日から昭和五六年一月三一日までの事業年度につき所得金額一二八五万七二八四円、納付すべき税額四三〇万二八〇〇円、重加算税額六万五三〇〇円を超える部分、
(五) 昭和五六年二月一日から昭和五七年一月三一日までの事業年度につき所得金額一一五二万九一四四円、納付すべき税額三八八万二一八〇円、重加算税額一万六三〇〇円を超える部分
を取り消す。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、倉庫業を営む同族会社であるが(昭和六二年一一月一九日に有限会社から株式会社に組織変更)、昭和五二年二月一日から昭和五三年一月三一日まで(以下「昭和五三年一月期」という。)、昭和五三年二月一日から昭和五四年一月三一日まで(以下「昭和五四年一月期」という。)、昭和五四年二月一日から昭和五五年一月三一日まで(以下「昭和五五年一月期」という。)、昭和五五年二月一日から昭和五六年一月三一日まで(以下「昭和五六年一月期」という。)、昭和五六年二月一日から昭和五七年一月三一日まで(以下「昭和五七年一月期」という。)の各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)の法人税につき、原告がした確定申告ないし修正申告、これに対して被告がした各更正(以下「本件各更正」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(以下右の重加算税の各賦課決定を「本件各決定」という。)、右に対する原告の審査請求並びに国税不服審判所長のした裁決は別表一の1ないし5の記載のとおりである。
2 しかし、被告のした本件各更正は、原告の本件各事業年度における所得を過大に認定した違法があり、また、本件各決定は、法人税の課税標準等または税額等の計算の基礎となるべき事実について原告が隠ぺいまたは仮装した事実がないのにこれをあるものと認定した点において違法である。
よつて、原告は、本件各更正及び本件各決定(審査裁決により一部取り消されたものについてはその後のもの。以下同じ)のうち、それぞれ前記請求の趣旨記載のとおりの部分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2は争う。
三 被告の主張
1 本件各更正の根拠及び適法性
原告の本件各事業年度の所得金額は、後記(一)ないし(五)のとおりであつて、本件各更正における所得金額(ただし、審査裁決で一部取り消されたものについてはその後のもの)と同額ないしそれを上回るものであるから、本件各更正はいずれも適法である。
(一) 昭和五三年一月期 二六七七万九九八一円
当期の所得金額は、申告に係る所得金額に以下の(1)ないし(3)の計一七〇九万七八七八円を加算した金額である。
(1) 架空給与否認額(役員賞与) 一四九七万円
原告は当期において給料手当として二二〇七万円を損金の額に算入しているところ、右金額のうち一四九七万円(別表二の1<11>差引架空給与・役員賞与欄合計額)は、訴外金子忠文等多数の名義を借用し、あたかも同人らに対して役員報酬または給料を支給したかのように給与所得に対する所得税源泉徴収簿を作成するなどして仮装したうえ、実際には右金額を原告の代表取締役金子吉蔵(以下「吉蔵」という。)の管理する青木信用金庫鳩ケ谷支店の吉蔵名義普通預金に預け入れるなどして同人が取得したと認められるから、右金額は損金の額に算入されない(以下、同様の方法によつて損金の額に算入している金員を「架空給与」という。)。
なお、別表二の1<1>の給料勘定欄の合計額は、原告の本件各事業年度の損益計算書に計上された給料の額であり、<4>原告代表者の役員報酬欄は、原告が吉蔵に支給したとして所得税源泉徴収簿に記載した報酬額であり、<11>差引架空給与・役員賞与欄の合計額(原告が確定申告において所得金額に加算済みの役員賞与の金額を控除した後の金額)は、原告が支出した正当な給与(吉蔵の報酬及び従業員の給料、賞与)を除いた、本件各事業年度の本件架空給与額である。また、同表記載の給与支給日(従業員給与は毎月下旬または月初め、吉蔵の役員報酬は毎月月末または上旬)に原告名義の普通預金から支出された金額を記載したものが、同表<2>社長勘定欄である(以上は、すべて別表二の2ないし5の各<1>、<2>、<4>及び<10>欄についても同じである。)。
(2) 棚卸減耗損否認額 一〇一万九六〇〇円
原告が、当期において預り品の破損・紛失等につき弁償したとして損金の額に算入した棚卸減耗損一〇一万九六〇〇円については、その支出の事実がないのにこれを架空に計上したものと認められた。
よつて、同金額を損金の額に算入することを否認した。
(3) 収入金計上漏れ額(未収入金) 一一〇万八二七八円
株式会社積水配送センターから昭和五三年三月に入金した昭和五三年一月分の倉庫料及び荷役料は二五五万五五七八円であるにもかかわらず、このうち原告が当期の収益に計上した額は一四四万七三〇〇円であつたので、その差額一一〇万八二七八円を未収入金として当期の所得金額に加算した。
(二) 昭和五四年一月期 二一〇九万四九七一円
当期の所得金額は、申告に係る所得金額に以下の(1)を加算し、(2)を減算した金額である。
(1) 加算金額計 一三六〇万円
ア 架空給与否認額(役員賞与) 一二二二万円
原告は、当期において給料手当として一九四六万円を損金の額に算入しているところ、右金額のうち、一二二二万円(別表二の2<10>欄合計額)については、前記(一)(1)と同様にして作出された架空給与と認められるから、右金額は損金の額に算入されない。
イ 棚卸減耗損否認額 一三八万円
原告が当期において損金の額に算入した棚卸減耗損一三八万円については、前記(一)(2)と同様、架空に計上したものと認められたので、同金額を損金の額に算入することを否認した。
(2) 減算金額
未納事業税 一九五万三九六〇円
昭和五三年一月期の更正処分額に見合う事業税一九五万三九六〇円を当期の所得金額から減算した。
(三) 昭和五五年一月期 二一四八万一一八二円
当期の所得金額は、申告に係る所得金額に以下の(1)を加算し、(2)を減算した金額である。
(1) 加算金額計 一四四二万円
ア 架空給与否認額(役員賞与) 一一九二万円
原告は、当期において給料手当として、一九六〇万円を損金の額に算入しているところ、右金額のうち一一九二万円(別表二の3<10>欄合計額かつこ書き)については、前記(一)(1)と同様にして作出された架空給与と認められるから、右金額は損金の額に算入されない。
イ 棚卸減耗損否認額 八〇万円
原告が当期において損金の額に算入した棚卸減耗損八〇万円については、前記(一)(2)と同様、架空に計上したものと認められたので、同金額を損金の額に算入することを否認した。
ウ 退職金否認額 一七〇万円
原告が、金子忠文の死亡退職金を同人の親族へ支払つたとして、右金額を損金の額に算入しているところ、右金員は実際には吉蔵が管理する同人ほか二名名義の各預金口座に入金されており、原告主張の支払の事実は認められないから、同金額を損金の額に算入することを否認した。
(2) 減算金額
ア 未納事業税 一三九万七五二〇円
昭和五四年一月期の更正処分額に見合う事業税一三九万七五二〇円を当期の所得金額から減算した。
イ 市民税還付金 一七〇〇円
市民税の還付金は、法人税法二六条の規定により益金の額に算入されないものであるが、原告は、これを益金の額に算入していたので所得金額から減算した。
(四) 昭和五六年一月期 二二五七万一七六四円
当期の所得金額は、申告に係る所得金額に以下の(1)を加算し、(2)を減算した金額である。
(1) 加算金額計 一四五四万二七〇〇円
ア 架空給与否認額(役員賞与) 一二八〇万五〇〇〇円
原告は、当期において給料手当として二一〇〇万五〇〇〇円を損金の額に算入しているところ、右金額のうち一二八〇万五〇〇〇円(別表二の4<10>欄合計額かつこ書き)については、前記(一)(1)と同様にして作出された架空給与と認められるから、右金額を損金の額に算入することを否認する。
イ 棚卸減耗損否認額 一七三万七七〇〇円
原告が当期において損金の額に算入した棚卸減耗損一七三万七七〇〇円については、前記(一)(2)と同様、架空に計上したものと認められたので、同金額を損金の額に算入することを否認した。
(2) 減算金額
未納事業税 一五六万二四〇〇円
昭和五五年一月期の更正処分額に見合う事業税一五六万三四〇〇円を当期の所得金額から減算した。
(五) 昭和五七年一月期 二一一六万三三四四円
当期の所得金額は、申告に係る所得金額に以下の(1)を加算し、(2)を減算した金額である。
(1) 加算金額計 一一九七万〇三八九円
ア 架空給与否認額(役員賞与) 一一〇一万円
原告は、当期におきて給料手当として一九二九万円を損金の額に算入しているところ、右金額のうち一一〇一万円(別表二の5<10>欄合計額)については、前記(一)(1)と同様にして作出された架空給与と認められるから、右金額は損金の額に算入されない。
イ 棚卸減耗損否認額 八五万円
原告が当期において損金の額に算入した棚卸減耗損八五万円については、前記(一)(2)と同様、架空に計上したものと認められたので、同金額を損金の額に算入することを否認した。
ウ 交際費否認額 二万六〇〇〇円
エ 厚生費否認額 七万四三八九円
オ 水道光熱費否認額 一万円
右ウないしオに係る金額は、原告において領収証書の記載金額を故意に改ざんするなどして正規の支出金額よりも過大に計上したものと認められるので、各金額を損金の額に算入することを否認した。
(2) 減算金額
未納事業税 一五五万七六〇〇円
昭和五六年一月期の更正処分額に見合う事業税一五五万七六〇〇円を当期の所得金額から減算した。
2 役員賞与とされる架空給与について
前記のとおり、原告は第三者名義を冒用して吉蔵に対して架空給与を支給していたものであるが、右給与が役員報酬ではなく役員賞与と認定すべきであることは、次に述べるとおりの理由による。
(一) 一般に、役員報酬(法人税法三四条二項)は、役員の通常の業務執行の対価であつて事業経営上の経費から支出されるのに対し、役員賞与(同法三五条四項)は、利益獲得の功労に対する報酬であつて、利益金の一部から与えられるものであり、それゆえに法人の所得の計算上、役員報酬は原則として損金に算入されるが、役員賞与については損金算入が認められていない(同法三四条、三五条各一項)
このように、役員報酬と役員賞与とは、その本来の意味内容を異にするものであるが、現実に役員に支給される給与が業務執行の対価であるか利益の分配であるか、他から判別することは実際上必ずしも容易ではなく、また、同族法人等において利益処分として支給すべきものを、課税を免れる目的で安易に報酬化する場合も考えられるので、法は、税務執行の便宜と法人納税義務者の租税負担の公平を図る見地から、専ら「臨時的な給与」であるか否かという、給与の支給形態ないし外形を基準として報酬と賞与とを区別することとしているのである。
また、法人税法三四条二項及び三五条四項の規定によれば、原告のような常勤の会社役員については、「臨時的な給与」に当たるものが役員報酬として認められないことは明らかである。
(二) 本件においては、原告は、給料勘定に別表三記載のとおりの名義を使用して架空給与を計上して得られた簿外資金を吉蔵に支給していたものであるから、吉蔵が収受した本件架空給与については、その全体についての支払(収受)年月日及び金額の点から役員報酬となるか「臨時的な給与」である役員賞与となるかを判断すべきものであるところ、吉蔵に支給した本件架空給与の支払(収受)年月日及び金額は、別表二の1<11>及び同二の2ないし5の各<10>差引架空給与・役員賞与欄記載のとおりであつて、右各表によれば、同人に対する本件架空給与の支給形態に定時性及び定額性は全くないことが明らかであるから、「臨時的な給与」すなわち役員賞与であるといわねばならない。
(三) 仮に、原告の社員総会において定められた報酬年額の枠内で定時定額の形で支払われたとしても、実際の支給状況が支給金額、支給時期及び支給方法等について明確な基準によることなしに、いわば原告の一存で任意に支払つたと認められる場合は、取締役の職務執行の対価として原告がその支払を義務付けられている役員報酬ということはできないから、法人税の課税上、これを損金の額に算入することはできない。
また、租税負担の公平の見地からみても、例えば収入除外による、あるいは架空経費の計上による法人の簿外資産を役員個人が費消した場合、法人税のほ脱を図つたという点ではなんら変わりないのに、それが臨時的であれば役員賞与とされ、定時定額の形を装つて費消すれば役員報酬になるとされるならば、極めて不合理であり、法人税法の趣旨に反するものといわざるを得ない。
(四) 役員が法人の簿外資金を個人的費消に充てる等法人の資産を譲り受ける場合、有限会社法三〇条により社員総会の認許を必要とし、社員総会の認許がない右役員の個人的費消行為は、役員の法人に対する損害賠償責任を生ぜしめる。
右行為によつて法人が被つた損害は、法人の資産を減少せしめたものとして、右損害を生じた事業年度における損金を構成し、役員に対して法人がその被つた損害に相当する金額の損害賠償請求権を取得するものである以上、それが法人の資産を増加させたものとて、同じ事業年度における益金を構成するものであるから、役員の費消額のみがただちに損金となるものではない。
また、右行為後に法人が社員総会において損害賠償請求権を放棄すれば、放棄時に役員に対し給与の支給(役員賞与)認定される役員個人の費消行為が、その行為時点では一部定時、定額となつていたとしても、法人の放棄時点では役員個人の費消額は、その累積額となるのであるから、役員は臨時的な給与すなわち役員賞与を受給したこととなる。
社員総会の認許及び損害賠償請求権の放棄のない本件において、本件架空給与等による原告の簿外資金を原告代表者が費消した原告の損害は、その費消時点では、原告の代表者に対する右損害に相当する損害賠償請求権を取得しているものであるから、原告の損金とはならない。
3 本件各決定の根拠及び適法性
原告は、前記1のとおり、吉蔵に対して支給した給与につき、第三者名義を冒用してあたかも被冒用者らに給与を支給したかの如く仮装する方法をとり(全事業年度)、また、棚卸減耗損(全事業年度)並びに交際費、厚生費及び水道光熱費(いずれも昭和五七年一月期)について過大ないし架空計上し、さらには、支払事実のない退職金を計上(昭和五五年一月期)したうえ同金員を吉蔵に取得せしめたり、故意に未収金の計上を怠る(昭和五三年一月期)などして、これに基づいて本件各事業年度の法人税の所得金額を過少に申告した。
右事実は、本件各事業年度の法人税の課税標準または税額の計算の基礎となくべき事実の隠ぺいまたは仮装に該当するものであるから、本件各更正における所得金額を基礎として国税通則法六八条一項の規定により重加算税を算出すると、本件各事業年度の重加算税額は、別表四のとおりとなり(端数処理については、昭和五三年一月期については昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法一一八条三項により一〇〇〇円未満を切捨て、その余の事業年度については同改正後の同規定により一万円未満を切り捨てた。)、同金額は、本件各決定における金額(ただし、裁決で一部取り消されたものについてはその後のもの)と同額ないしそれを上回るのであるから、本件各決定はいずれも適法である。
四 被告の主張に対する認否
1(一) 被告の主張1の冒頭部分は争う。
(二) 同1(一)の冒頭部分のうち、(1)のうちの四一七万円、(2)及び(3)の各金額を申告に係る所得金額に加算すべきことは認め、その余は争う。
(1)のうち、当期に給料手当として二二〇七万円を損金の額に計上していること、右金額のうち一四九七万円について多数の名義を借用して支出していること、そのうちの一〇八〇万円の限度では吉蔵が取得したことを認めるが、その余の四一七万円を吉蔵が取得したとの事実は否認する。右一四九七万円のうち一〇八〇万円については損金の額に算入されないとの主張は争う。
別表二の1のうち、<3>欄記載の金額が原告代表者名義普通預金に入金されて、吉蔵がこれを取得したこと、吉蔵の役員報酬を<4>欄記載のとおり月額三〇万円として所得税源泉徴収簿に記載していたことは認める(以上は、別表二の2ないし5の各<3>、<4>欄についても同様。)。
(2)、(3)は認める。
(三) 同1(二)の冒頭部分のうち、申告に係る所得金額に(1)アのうちの一四二万円及びイの各金額加算すべきこと、(2)のうち未納事業税を減算すべきこと自体は認め、その余は争う。
(1)のアのうち、当期に給料手当として一九四六万円を損金の額に算入していること、右金額のうち一二二二万円について多数の名義を借用して支出していること、そのうちの一〇八〇万円は、吉蔵が取得したことは認めるが、その余の一四二万円を吉蔵が取得したとの事実は否認する。右一九四六万円のうち一〇八〇万円については損金の額に算入されないとの主張は争う。
別表二の2のうち、<3>欄記載の金額が原告代表者名義普通預金に入金されて、吉蔵がこれを取得したこと、吉蔵の役員報酬を<4>欄記載のとおり月額三〇万円として所得税源泉徴収簿に記載していたことは認める。
イは認める。
(2)の金額は争う。未納事業税は七五万五六四〇円である。
(四) 同1(三)の冒頭部分のうち、申告に係る所得金額に(1)アのうちの一七二万円、イ及びウの各金額を加算すべきこと、(2)アのうち未納事業税を減算すべきこと自体及びイの金額を減算すべきことは認め、その余は争う。
(1)のアのうち、当期に給料手当として一九六〇万円を損金の額に算入していること、右金額のうちの一一九二万円について多数の名義を使用して支出していること、そのうちの一〇三〇万円の限度では吉蔵が取得したことを認めるが、その余の一六二万円を吉蔵が取得したとの事実は否認する。右一一九二万円のうち一〇三〇万円については損金の額に算入されないとの主張は争う。
別表二の3のうち、<3>欄記載の金額が原告代表者名義普通預金に入金されて、吉蔵がこれを取得したこと、吉蔵の役員報酬を<4>欄記載のとおり月額三〇万円として所得税源泉徴収簿に記載していたことは認める。
イ、ウは認める。
(2)のアの金額は争う。未納事業税は二四万五二八〇円である。
イは認める。
(五) 同1(四)の冒頭部分のうち、申告に係る所得金額に(1)のアのうちの二〇〇万五〇〇〇円及びイの各金額を加算すべきこと、(2)のうち未納事業税を減算すべきこと自体を認め、その余は争う。
(1)のアのうち、当期に給料手当として二一〇〇万五〇〇〇円を損金の額に算入していること、右金額のうちの一二八〇万五〇〇〇円について多数の名義を使用して支出していること、そのうちの一一四〇万円の限度では吉蔵が取得したことを認めるが、その余の一四〇万五〇〇〇円を吉蔵が取得したとの事実は否認する。右一〇八〇万円については損金の額に算入されないとの主張は争う。
別表二の4のうち、<3>欄記載の金額が原告代表者名義普通預金に入金されて、吉蔵がこれを取得したこと、吉蔵の役員報酬を<4>欄記載のとおり月額三〇万円として所得税源泉徴収簿に記載していたことは認める。
イは認める。
(2)の金額は争う。未納事業税は四七万六七六〇円である。
(六) 同1(五)の冒頭部分のうち、申告に係る所得金額に(1)のアのうちの二一万円、イないしオの各金額を加算すべきこと、(2)の未納事業税を減算すべきこと自体は認め、その余は争う。
(1)のアのうち、当期に給料手当として一九二九万円を損金の額に算入していること、右金額のうちの一一〇一万円について多数の名義を借用して支出していること、そのうちの一〇八〇万円の限度で吉蔵が取得したことは認めるが、その余の二一万円を吉蔵が取得したとの事実は否認する。右一〇八〇万円については損金の額に算入されないとの主張は争う。
別表二の5のうち、<3>欄記載の金額が原告代表者名義普通預金に入金されて、吉蔵がこれを取得したこと、吉蔵の役員報酬を<4>欄記載のとおり月額三〇万円として所得税源泉徴収簿に記載していたことは認める。
イないしオは認める。
(2)の金額は争う。未納事業税は三九万一八〇〇円である。
2 同2の(一)は認める。
(二)のうち、別表二の1<11>及び同二の2ないし5の各<10>差引架空給与・役員報酬記載の金額がすべて吉蔵に支給されていたとの事実は否認し、その余は争う。
なお、右同表<3>原告代表者名義普通預金の入金欄記載の金額が、当該年月日に原告名義普通預金から原告代表者普通預金に入金され、吉蔵がこれを取得したことは認める。
(三)は争う。吉蔵の役員報酬は、月額一二〇万円、年額一四四〇万円という明確な基準に従つて、支給時期も概ね翌月上旬、支給方法も原告名義普通預金から吉蔵名義の預金口座への振替えとして、一定しているのである。また、原告が吉蔵に対し第三者名義で支給した給与は、収入除外にも架空経費にも当たらず、法人税ほ脱を図つたものではない。吉蔵の所得税の負担を軽減する目的で第三者名義を使用したものである。
(四)は争う。原告においては吉蔵が月額一二〇万円の報酬を受領することを承認していたのであり、原告において吉蔵が取得した報酬の一部を他の役員の報酬として支払つたごとく仮装した不正行為の事実があつたとしても、それは自己の所得を隠ぺいするためにした行為であり、吉蔵が原告の資産を不法に領得する意思をもつてした行為ではないから、原告が吉蔵に対し損害賠償を請求すべき根拠はないのである。
3 同3は争う。
五 原告の反論
1 本件各更正について
(一) 役員報酬は、賞与が臨時的給与とされていることからして、定期の給与をいうものと解されるが、定時、定額性の有無という支給態度からのみによつて損金性を判断すべきものではなく、その金額が職務の内容、法人の収益等からみて不相当に高額であるか否か、及び社員総会により定められた支給限度額を超えているか否か等の諸事情も総合的に勘案して、職務執行の対価として経費とみるべきものか、利益処分とみるべきものかを判定すべきである。
(二) 原告が本件各事業年度に吉蔵に支給した金員のうち、帳簿上の勘案科目のいかんを問わず実質的に吉蔵への役員報酬の支払と認めうるのは、別表五の1ないし5記載のとおりであり、このうち被告主張の別表二の1ないし5に含まれていない、帳簿上給料勘定以外の勘定からの支出のものは、別表六記載の各金員である。
別表五の1ないし5記載の各金員は、概ね一三〇万円ないし一六〇万円であるところ、一二〇万円を超過する部分は原告の吉蔵に対する貸付金あるいは家賃の仮払金の趣旨で支払つていたものであり、超過分は原告及び吉蔵間において期末に精算していた。また、右各金員の支払時期は、月末か翌月の月初めから遅くとも一〇日までの間という形で一定している。
原告の実態が個人企業で、小企業であることに照らせば、右支払金額及び支払時期に定時性、定額性を認めるべきである。
(三) また、月額一二〇万円、年額一四四〇万円は、昭和四九年三月二五日に開催された社員総会の決議により承認されている役員報酬の年額一五〇〇万円の範囲内であり、また、原告の収益及び吉蔵の原告に対する貢献度に照らして、右金額は職務の対価として相当であるというべきである。本件各更正を受けた以降の事業年度においては月額一二〇万円の役員報酬を被告が認容している事実に照らしても、右の事実は明らかというべきである。
(四) 第三者名義で計上した架空給与は、原告が金子忠文ないし鎚田慶子、星原和子、川西千代、金子千代の名義に対して役員報酬または給料として支払つたことにして経理処理した部分と、架空従業員に給与として支払つたことにして経理処理していた部分と明確に区別できるものである。そして、そのうち第三者名義役員報酬部分は吉蔵が取得したものであるが、吉蔵に対して支給されたものとして経理処理されれば税法上支障なく認められる金額であり、他方、架空従業員給与は原告代表者吉蔵個人の銀行口座には入金になつておらず、その明細を明らかにできないいわゆる使途不明金であつて、実際、原告が取引先に対するリベート、接待費等に支出したものである。
原告としては、右架空従業員給与部分は損金の額に算入しないことを争わないものであるが、これをも吉蔵に支払われたことを前提にし、第三者名義役員報酬部分とあわせて吉蔵に対する給与の支払に定時、定額性がないとする被告の主張は誤りである。
(五) 被告は、原告が吉蔵に役員給与を支払うにあたつて第三者名義を使用した点を問題しているが、吉蔵は役員報酬のすべてを自己の所得として申告すると累進税率により多額の所得税を納めなければならないので、自己の所得税を軽減する目的で第三者名義を冒用したものであり、原告としては吉蔵の右免脱行為を幇助したにすぎない。第三者名義の冒用は吉蔵個人の所得税免脱の行為として捉えれば足る問題であり、右行為により原告が吉蔵に対して支払う報酬の損金性が失われるものてはない。
2 本件各決定について
仮に、年額一〇八〇万円の役員報酬の支給につき定時、定額性が認められず、役員賞与として原告の所得に加算されるとしても、それは法的評価の相違によるものであつて第三者名義使用とはなんらの因果関係もないことである。
また、前記のとおり第三者名義の使用は吉蔵の所得税を免れさせる目的で行われた仮装行為であり、原告において法人税を免れる目的で行われた仮装行為隠ぺい行為ではないから、重加算税を課するのは違法である。
六 原告の反論に対する認否
1 原告の反論1(一)は争う。
(二)のうち、別表六記載の各金員(昭和五五年六月一一の一〇万円を除く。)が帳簿上記載のとおりの勘定科目によつて経理処理されていることは認めるが、その余は争う。
社長勘定は、その後他の資産勘定あるいは費用勘定に振り替えられて期末においては貸借金額が一致し翌期に繰り越すべき金額のないいわゆる仮勘定であるから、仮に社長勘定の金額を給料手当とみて損金であるとする原告の主張を首肯するならば、社長勘定から他の費用勘定に振り替えたとき再度損金に経理されることとなり、同一の金額を二重に損金経理するという極めて不合理な結果を招来せしめることになる。また、退職金勘定及び棚卸減耗損勘定として経理処理された金員は被告において否認して原告の所得に加算し、原告もこれを認めているものである。
したがつて、給料勘定以外の支出勘定の金員をも含めた別表五の1ないし5を役員報酬とする原告の主張は、不合理である。
(三)のうち、社員総会決議があつたことは否認し、その余は争う。
(四)のうち、原告が架空役員給与と架空従業員給与とを概念上明確に区別していたとの事実、架空従業員給与として計上した部分は原告代表者が収受したものでなく、取引先の接待費等に費消されたいわゆる使途不明金であるとの事実は否認する。原告主張の架空役員給与部分と架空従業員給与部分とは、いすれも原告が吉蔵に対して第三者の名義を借用して支払つた仮装の給与であり同じ性質の金額であるから、あえて区別して論ずる合理的理由はなんら存せず、右を一体としてその定時、定額性を検討すべきである。
(五)は争う。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1は、当事者間に争いがない。
二 本件各事業年度の所得金額
1 昭和五三年一月期については、申告に係る所得金額に、被告主張1(一)(1)の架空給与否認額のうちの四一七万円、(2)の棚卸減耗損否認額、(3)の未収入金計上漏れ額を加算すべきであること、昭和五四年一月期については、申告に係る所得金額に、同(二)(1)アの架空給与否認額のうちの一四二万円、イの棚卸減耗損否認額を加算すべきであり、(2)の未納事業税(金額には争いがある。)を減算すべきであること、昭和五五年一月期については、申告に係る所得金額に、同(三)(1)アの架空給与否認額のうちの一七二万円、イの棚卸減耗損否認額、ウの退職金否認額を加算し、(2)アの未納事業税(金額には争いがある。)、イの市民税還付金を減算すべきであること、昭和五六年一月期については、申告に係る所得金額に、同(四)(1)アの架空給与認否額のうちの二〇〇万五〇〇〇円、イの棚卸減耗損否認額を加算すべきであり、(2)の未納事業税(金額には争いがある。)を減算すべきであること、昭和五七年一月期については、申告に係る所得金額に同(五)(1)アの架空給与認否額のうち二一万円、イの棚卸減耗損否認額、ウの交際費否認額、エの厚生費否認額、オの水道光熱費否認額を加算すべきであり、(2)の未納事業税(金額には争いがある。)を減算すべきであることは、当事者間に争いがない。
2 被告が申告に係る所得金額に加算すべきであると主張する架空給与否認額について判断する。
(一) 原告が、給料手当として昭和五三年一月期に二二〇七万円、昭和五四年一月期に一九四六万円、昭和五五年一月期に一九六〇万円、昭和五六年一月期に二一〇〇万五〇〇〇円、昭和五七年一月期に一九二九万円をそれそれ損金の額に算入していること、右各金額のうち、被告が架空給与と主張している昭和五三年一月期の一四九七万円、昭和五四年一月期の一二二二万円、昭和五五年一月期の一一九二万円、昭和五六年一月期の一二八〇万五〇〇〇円、昭和五七年一月期の一一〇一万円については、原告が金子忠文等多数の名義を借用して支出していたこと、そのうち昭和五三年一月期及び昭和五四年一月期の各一〇八〇万円、昭和五五年一月期の一〇三〇万円、昭和五六年一月期の一一四〇万円、昭和五七年一月期の一〇八〇万円は吉蔵が取得したものであること、本件各事業年度における吉蔵の役員報酬を月額三〇万円であるとして所得税源泉徴収簿に記載していたことは、当事者間に争いがない。
(二) 役員報酬と役員賞与の区別について
法人税法三四条二項は、法人が役員に対して支給する報酬とは役員に対する給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)のうち同法三五条四項に規定する賞与及び退職給与以外のものをいうと規定し、同法三五条四項は、賞与とは、役員または使用人に対する臨時的な給与(債務免除による利益その他の経済的な利益を含む。)のうち他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることとなつているものを除く。)を支給する旨の定めにに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいうと規定している。
右規定によれば、「臨時的な給与」に当たるものが役員報酬として認められないことは明らかである。
この点について、原告は、役員に対する給与が報酬か賞与かを判断する基準として、支給形態の定時、定額性に偏重することなく、右の基準のほかに、金額の業務執行の対価性及び予め社員総会決議により定められていた支給限度額の範囲内か否か等の諸事情をも勘案すべきであると主張する。
一般に、役員報酬は、役員の通常の業務執行の対価であつて、事業経営上の経費から支出されるのに対し、役員賞与は、利益獲得の功労に対する報酬であつて、利益金のうちから与えられるものであり、役員報酬と役員賞与とはその性質を異にするものである。しかし、現実に役員に支給される給与が業務執行の対価であるか否かを判別することは実際上必ずしも容易ではなく、また、利益処分として支給すべきものを容易に報酬化することによつて課税を免れる場合も考えられる。そこで、法人税法は前記のとおり、専ら「臨時的な給与」か否かという給与の支給形態を基準として報酬と賞与とを区別しているものである。
したがつて、支給形態的が臨時的な給与については、原告主張のような業務執行の対価性の有無等からその報酬性 を検討する余地はないものというべきである。
そして、「臨時的な給与」とは、その支給時期、支給回数、支給金額、趣旨等を総合的に考察し、これによつて当該給与が、経常性のない一時的なものと認められるときは「臨時的な給与」と解すべきである。
(三) そこで、まず、原告から吉蔵に対して支給された給料と認められる金員の支払時期及び金額、支払方法等について検討する。
(1) 前記争いのない事実と、成立に争いのない甲第三号証、乙第七四号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第七号証の一の一ないし二二、二の一ないし一七、三の一ないし一八、四の一ないし一六、五の一ないし一五、六の一ないし一一、証人関篤の証言、原告代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告は、貸倉庫業を営む同族会社で、本件各事業年度当時の資本の総額は五〇万円であり、代表取締役の吉蔵が営業、経理等一切の経営を支配し、青木信用金庫鳩ケ谷支店にある原告名義の普通預金口座(口座番号一一四一五四、以下「原告名義普通預金」という。)等原告の資金も吉蔵が支配管理し、伝票、帳簿等を作成することなく随時右預金から金銭の出し入れをしていたが、吉蔵は、原告の資金を個人的使途に流用するなどして、会社と個人の経理を明確に区別していなかつた。
イ 吉蔵は、原告から月額四五万円の賃料収入を得ていたが、賃料と給与の区別を意識せずに自己の収入として原告名義普通預金から払い戻して取得していた。また、原告における常勤の従業員は通常四名であるところ、稼働状況を記録する書類、給与の支給額及び支給日を明らかにする書類等を作成しないまま給与を支給していた。
ウ そして、多数人の名義借用し、同人らに給与を支給したかのよに所得税源泉徴収簿上記載して仮装の経理処理をし、吉蔵個人の報酬は右帳簿上月額三〇万円ではあるものの、実際は、右三〇万円以上の金額を取得していた。
エ 原告における振替伝票等の帳簿処理、会計処理は、法人税の申告時期前に至つて、顧問税理士がわずかな領収証等によつてこれをしていた。
オ 吉蔵は、本件各事業年度の所得について被告から税務調査を受けた際に、川西千代、金子千代、鎚田慶子、金子幸子の人件費につき一部架空計上があることを認めたうえ、架空分は自己が競馬、飲食等に費消した旨を述べる一方、その他の人件費については架空に計上したことを認めず、また、他人名義で計上した架空給与の計九〇万円を自己が取得し、合計月額一二〇万円の報酬を得ている旨の説明をしたことはなかつた。
カ 被告の税務調査の結果、原告名義普通預金から払い戻された金員は、吉蔵名義普通預金を経由して、吉蔵個人名義、親族名義あるいは架空名義の定期積金、非課税預金である定期預金に振り替えられていたことが判明した。
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
(2) 吉蔵に対する給与の支払と認められる金員について前掲甲第三号証及び原本の存在及び成立に争いのない乙第六号証の一ないし五によれば、原告名義普通預金からの払戻し金員のうち、帳簿上給料手当の支給とされ、または社長勘定から給料勘定へ振り替えられた金員及びその年月日は、別表二の1ないし5のかく<1>欄及び当該年月日欄記載のとおりであることが認められ(なお、右各表<1>欄の合計金額である給料手当計上額については、当事者間に争いがない。)、右認定に反する証拠はない。
そして原告名義普通預金からの右各払戻し金で吉蔵に帰属したと認められる金員は、原告が吉蔵に対して支給した給与と認めるべきであるから、以下、吉蔵に帰属したと認められる金員を検討する。
ア 右払戻し金のうち、右各表<3>欄記載の金員がそれぞれ記載の年月日に、青木信用金庫鳩ケ谷支店の吉蔵名義の普通預金口座(口座番号九一九八八、以下、「吉蔵名義普通預金」という。)に振り替えられ、吉蔵がこれを取得したことは、当事者間に争いがない。
イ また、原本の存在及び成立に争いのない乙第九号証の一ないし四、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一ないし三、第一二号証の一ないし三、第四五号証の一、二、第四七号証の一、二、第五一号証の一ないし一三、第五二号証の一ないし一九、第五三号証の一ないし四及び弁論の全趣旨によれば、別表二の3の昭和五四年五月一八日の<1>欄一四五万円のうちの<3>欄の八五万円を除くその余の金員、一二月二二日の<1>欄六〇万円、昭和五五年一月八日の<1>欄一〇〇万円のうちの<3>欄の九〇万円を除くその余の金員、別表二の4の昭和五五年二月二日の<1>欄一〇〇万円のうちの<3>欄九〇万円を除くその余の金員、同月二六日の<1>欄七〇万円のうちの四〇万円、四月八日の<1>欄一四五万円のうちの<3>欄一三五万円を除くその余の金員、一〇月二一日の<1>欄八〇万円、一一月六日の<1>欄一八五万円のうち<3>欄一五〇万円を除くその余の金員、一二月一日の<1>欄一九〇万円のうちの<3>欄一五〇万円を除くその余の金員が、吉蔵名義普通預金、同信用金庫の金子元幸名義の普通預金口座、金子吉蔵名義の定期積金等に直接入金され、あるいは吉蔵及び金子元幸名義の各普通預金口座に入金後、同日に吉蔵名義及び金子元幸名義の各定期積金に振り替える等して金子吉蔵がこれを取得したものと認められ、右認定に反する証拠はない。
ウ 会計帳簿上給料手当として損金経理された原告名義普通預金からの前記払戻し金のうち、吉蔵が取得したものであると認められる前記ア及びイの金員を除くその余については、原本の存在及び成立に争いのない乙第一六、第一八、第二〇、第二一、第五四、第六一、第六六号証並びに第六八号証及び第六九号証の各一に弁論の全趣旨を併せると、現金で出金したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
原告は、給料勘定に計上した架空従業員給与はいわゆる使途不明金であつて実際には取引に対するリベート等の交際費に費消した旨を主張するが、成立に争いのない乙第一号証の三、第二号証ないし第五号証の各二、証人関篤の証言及び原告代表者尋問の結果によれば、原告は主として倉庫等の建物を株式会社積水配送センター第四、五社に賃貸して収入を得ている業者であり、右積水配送センターが原告の倉庫の約七割を占めていること、本件各事業年度に交際費として計上している金額は、最高でも一三三万円余で少額であることが認められ(右認定に反する証拠はない。)、右事実に、前(1)記載のとおり認定した原告の会社規模、性格、経営状況、不正経理等の事実、さらに原告において支出金の使途について具体的、詳細にその内容を主張、立証しているとはいえないこと(甲第六号証及び原告代表者尋問の結果によつても、架空給与を計上して得られた簿外資金の使途が具体的に明らかになつたものと認めるに足りない。)、交際費として正規の経理処理をせず、その使途を秘匿する必要性について合理的な説明が主張、立証されていないこと等を勘案すれば、右払い戻し金は、払戻し日に原告において後記エのとおり正当な従業員給与として支給したものと勘案すべき金額を除いては、吉蔵に帰属したものと推認するのが相当というべきである。
エ 原告代表者尋問の結果によれば、原告は従業員給与を毎月二五日ごろを目処に支給し、自己の役員報酬は翌月上旬に取得していたものであることが認められ、また、成立に争いのない甲第五号証及び弁論の全趣旨によれば、従業員給与額(報酬、賞与を含む。)は、別表二の1の<5>ないし<9>、同二の2ないし5の各<5>ないし<8>欄記載のとおりと認定するのが相当であり、右認定を左右するに足る証拠はない。
オ ところで、原告は、原告から吉蔵に流れた資金のうち吉蔵の役員報酬と認めるべきものが別表五の1ないし5であると主張する。
しかし、右各表記載の金員に含まれる別表六記載の金員が同記載のとおりの給料勘定以外の各勘定科目から支出されたものであることは、当事者間に争いがない(ただし、昭和五五年六月一一日分を除く。)ところ、右各金員のうち、昭和五四年六月五日の一七〇万円(退職金勘定)、同年九月五日の三七万円のうちの二五万円(棚卸減耗損勘定)は、被告において退職金否認額、棚卸減耗損否認額として昭和五五年一月期の事業年度の所得金額に加算し、原告において所得金額に加算されることについて認めているものに該当することは、前二1で判示した当事者間に争いがない事実によつて明らかである。
また、社長勘定は仮勘定であり、最終的に他の資産勘定、費用勘定に振り替えられ、費用勘定に振り替えられた時点で損金として処理されるものであるから、社長勘定として支出したとする金員は、これを吉蔵が取得してもその時点では同人に対する貸付金となるにすぎず、その後に給料勘定に振り替えられて初めて損金として経理処理されるべき性質のものであるところ、本件において、原告主張の別表六記載の社長勘定からの支出金が給料勘定に振り替えられたものであると認定するに足る証拠がないから、これを報酬であるとして損金に計上することはできないといわざるを得ない。
したがつて、別表六記載の各金員は吉蔵への実質的な報酬と認めるべきであるとの原告の主張は、採用することができない。
(3) 以上の事実によれば、別表二の1<11>欄及び同二の2ないし5の各<10>欄(ただし△部分は除く。)記載の各金員は、給料手当とされた金員のうち吉蔵の役員報酬として経理処理されないまま吉蔵に帰属していた裏給給与と認められるのであり、その支給時期、金額、支給回数、支給方法に照らして、定時、定額性は認められず、原告において一定の客観的かつ明確な基準に従つて経常的にその支払を義務付けられていたものということは到底できず、結局、原告が吉蔵に対して支給した「臨時的な給与」すなわち役員賞与であるといわざるを得ない。
原告は、吉蔵の役員報酬は、他の非常勤役員等の名義を借用していたものの、月額一二〇万円、年額一四四〇万円という明確な基準に従つて支給していたもので、取得した金員のうち一二〇万円を超える部分は、原告からの借入金あるいは家賃の仮受金であると主張する。
しかし、原告が給料勘定から前記認定とおりの各金員を取得していたものであり、そのうち月額一二〇万円のみが吉蔵の報酬であると認めるに足る証拠はなく、また、原告において吉蔵の報酬を月額一二〇万円とする認識のもとでこれを超える部分を期末に精算していたと認めるに足る証拠もない。
原告代表者尋問の結果中には、原告においては、本件各事業年度の当時、役員報酬の年額を一五〇〇万円と定める社員総会決議があり、これに基づく月額一二〇万円の報酬と原告からの賃料月額四五万円の合計一六五万円の範囲内が正当な取得分であるとの認識のもとで原告の預金を払い戻して取得していた旨の供述部分があり、甲第一号証には右に沿う社員総会決議があつた旨の記載があるが、右決議の内容も吉蔵に対する月額一二〇万円の報酬を支給すべき基準たり得ないというべきであるほか、原本の存在及び成立に争いのない乙第七〇号証及び証人関篤の証言によれば、原告に対する税務調査の際には、当初、吉蔵及び原告の税理士はともに役員報酬の限度額について何ら説明することなく、その後役員報酬の年額を一〇〇〇万円と定めた昭和四八年三月二三日付けの社員総会議事録(乙第七〇号証)を提示したことが認められるのであつて(右事実に反する証拠はない。)、右事実に照らせば、甲第一号証が当時存在していたかも疑わしいといわざるを得ず、原告代表者の右供述部分及び甲第一号証の記載は信用することができない。
また、原告は、吉蔵の役員報酬を月額一二〇万円として、従業員給与と明確に区別していたことは甲第二号証(大学ノート)の記載により明らかである旨主張するが、原告代表者尋問の結果及び右により真正に成立したものと認められる甲第二号証によれば、吉蔵は、大学のノートに金子忠文(昭和五四年4月まで。同年七月以降は鎚田慶子)、金子千代、川西千代、星原和子にそれそれ一五万円ないし三〇万円、吉蔵に三〇万円、合計一二〇万円(昭和五四年五月分及び六月分は各九〇万円)になるように、他の従業員給料と区別して架空給与額を記載していたことが認められるものの、昭和五二年七月までは合計一三〇万円となるようにいつたん記載してきたこと、右大学ノートは実際の受領者及び金額を記載したものではなく、第三者名義を用いて架空給与を計上しまたは支給金額を分散させた結果の源泉徴収税額を明らかにするために吉蔵が記録した心覚えであることが認められるから、甲第二号証の記載は、架空給与のうちの月額一二〇万円のみを役員報酬として吉蔵が取得していたことを証するに足りないものというべきである。
その他、原告において月額一二〇万円として吉蔵の役員報酬を支給していたことを認めるに足る証拠はない。
(4) 以上によれば、被告主張の架空給与否認額である、昭和五三年一月期の一四九七万円、昭和五四年一月期の一二二二万円、昭和五五年一月期の一一九二万円、昭和五六年一月期の一二八〇万五〇〇〇円及び昭和五七年一月期の一一〇一万円は、いずれも損金の額に算入することはできないというべきである。
3 そうすると、本件各事業年度の所得金額は、各申告に係る所得金額に、昭和五三年一月期においては一七〇九万七八七八円(被告の主張1(一)(1)ないし(3)の合計)、昭和五四年一月期においては一三六〇万円、昭和五五年一月期においては一四四二万円、昭和五六年一月期においては一四五四万二七〇〇円、昭和五七年一月期においては一一九七万〇三八九円(いずれも被告の主張1(二)ないし(五)の各(1)の合計)をそれぞれ加算し、昭和五四年一月期ないし昭和五七年一月期の各事業年度においては、地方税法七二条の二二第一項を適用して計算した未納事業税(それぞれの前事業年度についての更正によつて増額した所得金額に係る事業税)及び昭和五五年一月期においては市民税還付金をそれぞれ控除して計算すべきこととなる。
したがつて、本件各事業年度の所得金額は別表七のとおりとなり、本件各更正における所得金額(ただし、裁決で一部取り消されたものについてはその後のもの)と同額ないしそれを上回るものであるから、本件各更正はいずれも適法である。
三 本件各決定について
本件各決定の前提である本件各更正には本件各事業年度の所得を過大に認定した違法がないことは、右認定のとおりであるところ、原告が、本件各事業年度において、第三者名義を借用し、あたかも右の者らに給与を支給したかのように仮装して吉蔵に対しこれを支給していたことは、右二で認定したとおりであり、また、本件各事業年度において棚卸し減耗損を架空に計上していたこと、昭和五七年一月期において交際費、厚生費、水道光熱費を過大に計上していたことは、右二1記載のとおり当事者間に争いがない。
そして、右に認定した原告の各行為は、過大に損金を計上することにより法人税額を不当に免れることになるものであるから、本件各事業年度の税額の計算の基礎となるべき事実の隠ぺいまたは仮装に該当することは明らかというべきである。
したがつて、本件各事業年度において本件各更正を前提にして別表四のとおりの重加算税を課した本件各決定にはなんら違法はないというべきである。
四 よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宍戸達郎 裁判官 北澤晶 裁判官 三村晶子)
別表一の1
法人税の更正処分及び加算税の賦課決定処分
自昭和五二年二月一日至昭和五三年一月三一日事業年度分
<省略>
一の2
自昭和五三年二月一日至昭和五四年一月三一日事業年度分
<省略>
一の3
自昭和五四年二月一日至昭和五五年一月三一日事業年度分
<省略>
一の4
自昭和五五年二月一日至昭和五六年一月三一日事業年度分
<省略>
一の5
自昭和五六年二月一日至昭和五七年一月三一日事業年度分
<省略>
別表 二の1
原告の給料勘定による原告代表者に対する裏給与(役員賞与)の支給明細(昭和53年1月期)
<省略>
注1 <10>欄において役員賞与のマイナス表示のもの(支給不足分)は、原告代表者が原告の簿外資金(役員賞与)から支出したものである。
注2 <2>欄の社長勘定(原告代表者に対する貸付金)は、原告の給与支給日に振替え出金のあるものを便宜記載したものである。
二の2
原告の給料勘定による原告代表者に対する裏給与(役員賞与)の支給明細(昭和54年1月期)
<省略>
注1 <10>欄において役員賞与のマイナス表示のもの(支給不足分)は、原告代表者が原告の簿外資金(役員賞与)から支出したものである。
注2 <2>欄の社長勘定(原告代表者に対する貸付金)は、原告の給与支給日に振替え出金のあるものを便宜記載したものである。
二の3
原告の給料勘定による原告代表者に対する裏給与(役員賞与)の支給明細(昭和55年1月期)
<省略>
注1 <10>欄において役員賞与のマイナス表示のもの(支給不足分)は、原告代表者が原告の簿外資金(役員賞与)から支出したものである。
注2 <2>欄の社長勘定(原告代表者に対する貸付金)は、原告の給与支給日に振替え出金のあるものを便宜記載したものである。
二の4
原告の給料勘定による原告代表者に対する裏給与(役員賞与)の支給明細(昭和56年1月期)
<省略>
注1 年月日欄の( )書のものと、給料勘定から給与支出がないため、便宜給与支給日に給与支出があったものとしたものである。
注2 <10>欄において役員賞与のマイナス表示のもの(支給不足分、ただし1/31のの振替分と除く)は、原告代表者が原告の簿外資金(役員賞与)から支出したものである。
二の5
原告の給料勘定による原告代表者に対する裏給与(役員賞与)の支給明細(昭和57年1月期)
<省略>
注1 年月日欄の( )書のものと、給料勘定から給与支出がないため、便宜給与支給日に給与支出があったものとしたものである。
注2 <10>欄において役員賞与のマイナス表示のもの(支給不足分)は、原告代表者が原告の簿外資金(役員賞与)から支出したものである。
別表三
各事業年度別の原告の給与所得に対する所得税源泉徴収簿に計上された給与受給者名義と架空給与の一覧表
<省略>
(注)
○…原告の計上額を相当とするもの
◎…原告の計上ないが、勤務、受給の事実あるもの
△…原告の計上額が過小なもの
▲…原告の計上額が過大なもの
×…架空給与
別表四
<省略>
五の1
(昭和52年2月~同53年1月)
<省略>
五の2
(昭和53年2月~同54年1月)
<省略>
五の3
(昭和54年2月~同55年1月)
<省略>
五の4
(昭和55年2月~同56年1月)
<省略>
五の5
(昭和56年2月~同57年1月)
<省略>
別表六
被告の表に含まれていない原告から吉蔵への入金の一覧表
<省略>
<注> 被告の別表4 55.11.6 ¥1,850,000は、原告の振替伝票には、「給料¥1,500,000、パート給料¥350,000」と書かれており、この¥1,500,000が吉蔵の普通預金へ振替入金となっているので、原告の表と符号する。
被告の別表4 55.12.1 ¥1,900,000は、原告の振替伝票には、「給料¥1,500,000、パート給料¥400,000」と書かれており、この¥1,500,000が吉蔵の普通預金へ振替入金となっているので、原告の表と符号する。
別表七
<省略>